院長ブログ

LDLコレステロールと認知症、最新の知見

2025-05-21

心血管系疾患ではなく認知症のリスクを考えたとき、LDLコレステロール値の適正値はいくらなのでしょうか。

Lancet誌の論文でも引き合いに出されている英国の研究1によれば、LDLコレステロール値が3mmol/L(=116mg/dL)を超えれば
認知症発症リスクが33%増加する」とされている。
厚生労働省のウェブサイトが「高LDLコレステロール血症の診断基準は140mg/dL以上」としていることを考えると、
「LDLコレステロール値が116mg/dL以上で認知症のリスクが33%上昇する」はショッキングなデータと言えます(外部リンク:厚労省)。

そして、2025年4月、J Neurol Neurosurg Psychiatry誌に発表された韓国のデータはさらに衝撃的な数値を示しました。

・研究の対象者は1986年11月から2020年12月までの18歳以上の外来患者。研究デザインは後ろ向き観察比較コホート解析
(retrospective, observational, comparative cohort analysis)。
LDLコレステロール値が70mg/dL未満、および130mg/dL以上の約10万9000人のデータがそれぞれ解析され、
さらに55mg/dL、30mg/dLでも検討された

・LDLコレステロール値が70mg/dL未満の場合、130mg/dL以上と比較して、
全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ26%、28%低下していた

・LDLコレステロール値が55mg/dL未満の場合、130mg/dL以上と比較して、
全認知症、アルツハイマー病共にリスクが18%低下していた

・LDLコレステロール値が30mg/dL未満の場合、認知症リスクを低下させないがリスクを上げることもない
(低LDLコレステロール血症は認知症のリスクとする報告があるが、本研究ではリスクを上げるものではないことが示された)

・スタチンを使用している集団で見ると、LDLコレステロール値が70mg/dL未満の場合、
130mg/dL以上の場合と比べて全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ13%、14%低下していた。
しかし、55mg/dL未満では、130mg/dL以上と比較してリスク低下は認められなかった
(よってスタチン使用により55mg/dL未満にする必要はない)

・LDLコレステロール値が70mg/dL未満のスタチン使用者は非使用者と比較して、
全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ13%、12%低下していた
(同じ数値でもスタチンを使用している方がリスクは下がる)

・LDLコレステロール値が130mg/dL以上のスタチン使用者は非使用者と比較して、
全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ7%、10%低下していた
(この場合も、同じ数値でもスタチンを使用している方がリスクは下がる)

現在の日本の脂質コントロールのガイドラインでは、虚血性心疾患などに二次予防での目標値が
70mg/dL未満となっておりますが、認知症予防の視点からするとLDLコレステロール値は
やはり70未満にコントロールするのがベストといえそうです。

 

1)Mukadam N, et al. South Asian, Black and White ethnicity and the effect of potentially

modifiable risk factors for dementia: A study in English electronic health records. PLoS One. 2023;18(10):e0289893.

COVID19の最新事情

2024-10-29

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類となった2023年5月~24年4月の1年間で、
死者数が計3万2576人に上った
ことが24日、厚生労働省の人口動態統計で分かった。
季節性インフルエンザの約15倍と格段に多く、大部分を高齢者が占めます。
政府は重症化リスクの低下を理由に新型コロナの類型を引き下げ、
日常生活の制約はほぼなくなりましたが、今も多くの人が脅威にさらされています。

例年冬にかけて感染者が増える傾向にあります。

人口動態統計のうち、確定数(23年5~12月)と、確定前の概数(24年1~4月)に
計上された新型コロナの死者数を集計。その結果、3万2576人となり、65歳以上が約97%でした。
同時期のインフルエンザの死者数は2244人。
新型コロナは、ウイルスが次々と変異して高い感染力を持つ上、病原性はあまり低下せず、
基礎疾患のある高齢者が感染して亡くなっているとみられます。

当院ではコロナワクチン・インフルエンザワクチンの定期接種を行っています。
非課税の方は非課税証明書かマイナンバーカードでの確認で無料接種となりますが、
課税の方はコロナワクチンが2000円、インフルエンザワクチンは65歳以上では1500円となります。

65歳以上の方や、60歳以上で基礎疾患のある方はなるべくワクチンを接種することをお勧めします。

脂肪肝について

2024-10-15

先日開催された欧州肝臓学会国際肝臓学会議2023で、
これらの名称が変更されることが発表されました*1
その理由として、”alcoholic”や”fatty”という単語が
”飲んだくれ”や”肥満”という意味を含んでおり、
患者さんの大半が非難されていると感じていることが挙げられています。

MAFLDとMASH

原因に関わらずすべての脂肪肝を表すものを”SLD(steatotic liver disease)”としました。
また新たな名称としてNAFLDはMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)へ
NASHはMASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)への変更が望ましいと提案されました。
“metabolic”とは”代謝性”という意味で、脂肪肝には糖尿病や脂質異常症、肥満、高血圧など
代謝性の疾患が合併することが多く、MAFLDやMASHの定義は
これらの代謝異常が合併している脂肪肝であることです。

MAFLDとNAFLDの違い

MAFLDとNAFLDは名前が変わっただけではありません。

NAFLDの定義は

① 脂肪肝がある
② アルコール摂取歴がない(エタノール換算男性30g/日以下、女性20g/日以下)
③ 他の肝疾患原因がない

でしたが、MAFLDの定義は

① 脂肪肝がある
② BMI 25以上(日本を含むアジアでは23以上)または
糖尿病、または代謝障害があるもの全て
アルコール歴、他の肝疾患原因の有無は問わないとなっています。
このためこれまでエタノール摂取量60g/日以上が診断基準であった
アルコール性肝障害にもNAFLDにもあてはまらなかった、
中等度の飲酒者もMAFLDに分類されるようになり、これらを特に
MetALD(Metabolic alcoholic liver disease)としました。

その他の脂肪肝

脂肪肝のうち、NAFLDで代謝異常や原因となるような疾患もないものはcryptogenic SLD,
薬物性,Wilson病などに起因する場合はspecific aetiology SLDと診断します。

以上は海外での動きです。日本でもこの新たな分類に沿って消化器病学会*2
肝臓学会*3が「NAFLD/NASH 診療ガイドライン」を改訂するとの声明を発表しました。
今後はNAFLDやNASHではなく、MAFLD・MASHが使われるようになるかもしれません。

出典

*1: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37364790/
*2: https://www.jsge.or.jp/news/archives/733
*3: https://dx-mice.jp/jsh_cms/files/info/1328/20230929%E3%80%80oshirase62.pdf

食と環境

2024-04-10

当法人はグループホームを運営しています。
認知症と診断されている患者様などが27人共同で生活されており、
当院より訪問診療などを行って医学的管理も行っています。
ご高齢の患者様が多く、どうしても高齢になると食欲の低下などが課題となってきます。

先日、介護スタッフ主催で当院の駐車場でのバーベキュー大会が開催されました。

当日は雨天も心配されましたが、なんとか開催できました。

普段は寝たきりの患者様も車いすを利用し、ほとんどの患者様にご参加いただきました。

職員が準備した焼きそばやおにぎり、そして炭火での焼肉を患者様に
召し上がっていただきました。

そこで感じたことですが、普段は流動食でなかなか食が進まない患者様もおられるのですが、
その日は焼きそばなど(患者様向けに肉などもやわらかく調理しています)を
モリモリと食べられていることに驚きを隠せませんでした。

人は環境により食欲が刺激されるとの研究は多数の報告がありますが、
まさしくそうだなと痛感した次第でした。

当施設でもこれからもこのような取り組みを継続して行っていこうと思った次第です。

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/20/0/20_0_94/_article/-char/ja/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/20/0/20_0_94/_article/-char/ja/

 

高血圧と運動

2024-02-21
当院には高血圧で通院されている患者さまが数多くいらっしゃいます。
血圧については大原則なのは減塩なのですが、最近の研究では有酸素運動の重要性が次々と報告されています。
コネチカット大学より報告された高血圧とウォーキングによる効果の論文をご紹介いたします。
高血圧のある高齢者は、1日の歩数を3,000歩増やすと、血圧を大幅に低下できることが明らかになりました。
米国の高齢者の80%は高血圧と推定されている。血圧値を正常に管理することで、心不全・心臓病・脳卒中・腎臓病などの
深刻な病気のリスクを減らすことができるとのことです。  「歩数を3,000歩増やすと、多くの高齢者は1日の歩数は7,000歩となり、
運動ガイドラインで推奨された運動量をみたすことができます。

1日の歩数を3000歩増やすと高血圧を大幅に軽減できる

高血圧のある高齢者は、1日の歩数を3,000歩増やすと、血圧を大幅に低下できることが明らかになりました。
ウォーキングは、誰でも、いつでも、どこでも取り組める運動として人気が高いです。
「米国の高齢者の80%は高血圧と推定されています。血圧値を正常に管理することで、
心不全・心臓病・脳卒中・腎臓病などの深刻な病気のリスクを減らすことができます。
ご高齢の方は、1日の歩数を3,000歩増やすと、高血圧を大幅に軽減できることが分かりました。
これは、個人差はありますが、1日30分のウォーキングに相当します。
最小限の運動介入で効果をえられるのです。

脳卒中リスクを36%減少するのに相当

研究は、高血圧があり、1日に座ったまま過ごす時間が長い、年齢が73歳(中央値)の高齢者21人(男性8人、女性13人)を対象に実施したもの。
参加した高齢者の年齢は68歳~78歳で、1日の歩数は平均して約4,000歩でした。  その結果、歩数を3,000歩程度増やし、
1日に7,000歩にすると、参加者の収縮期(最高)血圧は平均7ポイント、拡張期(最低)血圧は平均4ポイント、それぞれ低下したとされます。
これは、全死因による死亡の相対リスクが11%減少し、心血管死亡のリスクは16%減少、心臓病のリスクは18%減少、
脳卒中のリスクは36%減少するのに相当するとされています。  参加者には、歩数計、血圧計、毎日どれだけ歩いたかを記録する
日記などのキットが与えられました。

1日に3000歩増やすのは難しくない

これまでの研究でも、運動が高血圧のある成人の血圧値を即時的かつ長期的に下げるのに効果的であることが示されています。
「年齢を重ねて、長生きすると、ほとんどの人は血圧値が高くなります。ウォーキングは誰でも簡単に取り組め、特別な道具は必要なく、
いつでもどこでも行うことができるのです。  「歩数を3,000歩増やすと、多くの高齢者は1日の歩数は7,000歩となり、
運動ガイドラインで推奨された運動量をみたすことができます。1日に3,000歩増やすことは、難しいことではないのです。
米国の運動ガイドラインでは、活発な運動や身体活動を、週に150分行うことが推奨されています。
高齢者が、毎日の歩数を1日あたり3,000歩増やすと、その運動量を満たすことができるとされています。

運動には降圧薬と同等の効果が

降圧薬などを服用している人でも、運動療法と薬物療法を組み合わせることで、治療効果をさらに増強できる可能性があるというのです。
「高齢者が運動に取り組むと、降圧薬と同等の血圧管理をえられることも分かりました。参加者のうち8人は降圧薬を服用していましたが、
毎日の歩数を増やすことで、やはり収縮期血圧の改善がみられましたというのです。
「生活スタイルのシンプルな介入により、体系的な運動指導や、薬物療法と同じくらいの効果をえることが可能であることが
示されたのは興味深いです」としている。  なお、歩行速度や歩行を継続して行うことは、単純に歩数を増やすことに比べて、
それほど重要ではないことも分かりました。  「この場合で重要なのは、運動や身体活動の強度ではなく、
その量であることが示されました。歩数を増やすことを目標にすると、健康上のベネフィットをえられるとされています。
今回の研究はパイロット研究であり、研究グループはえられたデータを使用し、より大規模な臨床試験を実施することを計画しているといいます。
Increasing Steps by 3,000 Per Day Can Lower Blood Pressure in Older Adults (コネチカット大学 2023年9月26日)
Increasing Lifestyle Walking by 3000 Steps per Day Reduces Blood Pressure in Sedentary Older Adults with Hypertension:
Results from an e-Health Pilot Study (Journal of Cardiovascular Development and Disease 2023年7月27日)

Increasing Lifestyle Walking by 3000 Steps per Day Reduces Blood Pressure in Sedentary Older Adults with Hypertension:
Results from an e-Health Pilot Study (BMJ Open Sport & Exercise Medicine 2023年7月27日)

当院では高血圧の患者様には丁寧に疾患についてや、治療法につきまして説明を行っております。
気になることがありましたらお気軽にご相談ください。

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