動脈硬化性疾患ガイドライン2022
当院は生活習慣病、特に動脈硬化性疾患の診療に特に注力しております。
今回は5年ぶりに改訂され7月4日に発刊された動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版について
解説を行いたいと思います。
今回の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド(中性脂肪、以下TG)」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」です。
<2022年度版の主な改訂点>
1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定。
2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、
冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用。
3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、
細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、
これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。
4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。
さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」
「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。
5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載。
(1)脂質異常症の検査
(2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、
CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付)
(3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
(4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加
(5)健康行動倫理に基づく保健指導
(6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理
(7)続発性脂質異常症
変更に至った主な理由
1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと
将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。
国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、
空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントされています。
2)については、吹田スコアに代わり今回では久山町研究のスコアを採用。その理由として、
「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。
久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強い
アテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明。
3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、
心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている。
4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。
また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから
「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、
今回より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説されています。
5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として
「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、
続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると
横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されています。
当院では脂質異常症の患者さんがたくさんおられますが
ガイドラインは当然のことながら、画像診断も組み合わせ、患者さんの最適な治療になるよう
常に努めております。
脂質異常症のセカンドオピニオンも受け付けておりますのでお気軽にご相談ください。
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くわはたクリニック
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